自由課題・・・それは公園でなんとかする・パート②

愛川公園_201708_000
※ 遊ぶだけじゃないよ


● 神奈川県立愛川公園&宮ヶ瀬ダム
● 場所:神奈川県愛甲郡愛川町半原5423
http://www.aikawa-park.jp/
● 開園時間
  8;30~18;00(4月~9月)
  8:30~17:00(10月~翌3月)
● 休業日:12/29~1/3
● 料金:無料
● 駐車場:500円(普通車)
● 遊び時間:1日



幾度となく登場の本公園。
遊ぶだけの公園ではなく、体験施設も併設されていてとても便利で楽しい。

この公園で体験できるのは
・藍染
・紙すき
・機織り
・陶芸
・木工

料金はまちまちだが、各カテゴリ内でも複数のメニューが用意されていて、かつリーズナブル。
今回、和紙はがき(押し花入り5枚)コースを体験しいたが、料金は一人800円。
無地のはがきだと600円。

体験できるメニューを数えてみたら51種類あった。

藍染コースなどは、Tシャツ染めやスカーフ染めもあって、大人にも良いかもしれない。
見本はかなり粋で御洒落な仕上がりだった。

大人も一緒にどうぞ。









夏休みの自由課題。

とりあえず此処にくればなんとかなると確信していた。
そしてなんとかなった(笑)
愛川公園_201708④




今回選んだのは「和紙作り」
所謂「紙すき」だ。

受付を済ませ、体験教室に移動。
空いていたので、待つことなく直ぐに開始となった。
愛川公園_201708⑤


紙は原料となる植物繊維を水に溶かし、それを「すく」事で水抜きを行い、乾燥させて作る。
たぶん・・・。

ということで、あらかじめ原材料を溶かした状態のものが用意されていて、そこから和紙をつくる行程を一通り経験できる仕組みになっていた。

ということで、先ずは紙すき。
愛川公園_201708⑥


選んだサイズは「はがき」。
木枠に原料をため込んで、まんべなく広がるように、水を切りながらゆすって行く。
子供たちはおっかなびっくり。

上手にできたら、木枠から平台にうつす。
そしてどういう理由なのか良く解らないが、水をかけていく。
愛川公園_201708⑦


一旦原型が完成したところで、本物の落ち葉を乗せる。
目的は小粋な模様の演出。

紙と紙でこの落ち葉を挟み込んで、一枚のはがきを作る。

愛川公園_201708⑨


ちょっと色々作業工程があったが、ざっくりだと、すいた紙を水抜きして、縦型の巨大なアイロンで乾かし乾燥させてしあげる。
写真で背中を向けているのが長男だが、この長男がやっているのが巨大なアイロンで和紙を乾かしているところ。
この鉄板、実は「熱い」

こちらを向いてぼんやりしているのが次男だが、次男はすいた紙を平らにならしているところだ。

愛川公園_201708⑧


仕上げは、郵便番号を書く欄を「はんこ」で押印。
思った以上に風流なはがきができあがった。
愛川公園_201708⑩



公園には色々な楽しみ方があって、飽きることがない(笑)

はがき





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先日の事。


担当する仕事を進める上で、幾つかの調整作業が必要となった。
その中の一つに「決済を取り付ける」があり、けれど急ぎの事情もあって通常の段取りでは事が運ばない状況にもあった。

僕は書類を手持ちして、必要とする「ハンコ」を直に獲得して回った。

いよいよ最後という時に、決裁者である役員の所在が解らず難儀した。
事によっては日本にいない可能性もあった。
そもそも、役員に直接決裁を取り付けるなどという行程は存在しない。
けれど、通常のフローを経過していては間に合わない状況だった。

「君は誰だ?」のやりとりから始まる可能性もあったので、とにかく早く面会しなければならないと焦っていた。



とはいえ、僕には役員スケジュールの閲覧権限はない。
出来ることは、あちこち電話をかけて所在を確認することぐらいだった。

「夕方、東京の事務所に顔を出すらしいよ」

この「らしい」の情報だけが頼りだった。
翌日に先延ばしすることもできない事情もあったが、なによりすんなり案件が通らない可能性もあった。

やきもきしながら夕方まで、しがない仕事を片付けて過ごした。
気が付くと、定時のチャイムが鳴った。
万事休す。

と、思った矢先にフロアーの奥の方を歩いている役員を見つけた。
僕は遠巻きに顔色を伺う。
ご機嫌なのかそうではないのか、判別が付かない。

しかたがない、行こう。

そう思って、折り込みチラシでもつかむように、書類の束を片手に役員ににじり寄る。
恐らく僕の顔が思い詰めていたのだろうと思う。
何事?という感じで役員はたじろいた。

「今、少しお時間よろしいでししょうか?」

僕はそう言って頭を下げ、そして自分の部署と名前を名乗った。

役員は少し怪訝な顔をし、何かを考え、そして笑顔になった。

「ああ、何?知ってるよ君。色々噂を聞いている。もっとも、裏の噂だけど」
そう言って笑った。

今度は僕がたじろいた。
裏の噂??
何それ??

僕が固まっているのを見て、役員は直接声をかけてきた事情を問いただした。
僕は我に返る。

「大変申し訳ありません。実は、、」

そう言って、直談判を必要とした事情と目的を説明した。
兼ねてより上がっていた案件で、そしてそれが急遽進行したのだという事情を汲み取ってもらう事はなんとかできた。

「熟慮する時間が無いな、、、」

役員はそう言った。
当然だ。

「関連部署の承認は全て取り付けてあります。必要であればこの場で確認を取って頂いても構いません」

僕がそういうと、

「なるほど。ちなみに、今印鑑を持っていない」

役員はそう言って笑いながら、書類にサインをしてくれた。

良し!!

そう心の中で叫び、僕は自分のフロアーに戻ると、管理部門の担当者に投げるようにして、書類を提出した。
管理部門の担当者からは、「きちんとした手続きで進めてもらわないと困るんですけど」と指摘を受けたが、そんな段取りでは状況突破はできないし、「大変申し訳ありません」と言いながら、謝る相手が顧客ではなく社内の人で良かったと胸をなでおろした。





どたばたした一日が終わって、帰路に就く。

「色々噂を聞いているよ。裏の噂だけど」

役員が言っていた事が気にかかった。
役員の耳の届くような噂としたら、その類は大概あまりよいものではないはずだ。
そもそも僕のような立ち位置の人間が役員レベルの記憶に残るのも解せない。

「裏の噂だけど」

表現からして良い噂では無い。

なんだろう???

帰りながらずっと考えて歩いた。

そして、ふと、もしかしたら、、、と思い当たる事があった。
そして僕も思わず笑った。
全てが解せた。

なるほど、そういう事か。

僕はニヤニヤしながら地下鉄に乗り込んだ。







僕に関する噂。


それは噂というよりも、比較的実しやかに認識されている事で、どちらかというとコソコソした感じで語られる事もない。
どこで、そうなったかは解らないが、僕は「ゲイ」だと語られている(爆笑)

いやこれ、本当に真事として認識されていて、女性社員など本当にそうだと信じ込んでいる。

職場のフロアには100人以上いて、その大半の名前を僕は知らないのだが、恐らくは大半の人が僕の事は知っているようだ。
今となっては遠く離れた本社でも語れているのだろう(笑)
役員が知っているという事は、つまりはそういう事か。

そんな「噂」の独り歩きは、正直ちょっと面白くて、僕は特に否定もせず、また直接聞かれると「どう思う?」と思わせぶりに答える事にしている。

この場ではっきり言っておくと僕は男性には興味は無い(笑)

けれど不思議な事で、これに関しては昔からよく指摘を受ける。
なんでだろう?

決してしゃべり方が女性的なわけでもない。
どっちかというと、ぶっきらぼうだし。




最近、古い写真を眺めていてちょっと面白いものを見つけた。
当時、職場の面々と旅行に行った時の写真。

同僚と二人で映ったものが、男同士なのに、なんとも表現しがたい雰囲気。

恋人に遠慮がちに寄り添うような仕草の僕(笑)
友達以上、恋人未満。

そんな感じ。

記念写真



これじゃあ、噂もやむを得ない(爆笑)



自由課題・・・それは公園でなんとかする

愛川公園_201708_24
※ 本当は、夏休みの自由課題をこなしに訪問


● 神奈川県立愛川公園&宮ヶ瀬ダム
● 場所:神奈川県愛甲郡愛川町半原5423
http://www.aikawa-park.jp/
● 開園時間
  8;30~18;00(4月~9月)
  8:30~17:00(10月~翌3月)
● 休業日:12/29~1/3
● 料金:無料
● 駐車場:500円(普通車)
● 遊び時間:1日


もはや、何度めの登場か解らない。
僕のお気に入りの公園だ。

楽しみ方は色々。

・個性的な遊具と個性的なアスレチックで遊ぶ。
・ダムまで景観を楽しみながらハイキングを楽しむ。
・芝生の気持ち良い広場で、ランチ&外遊びを楽しむ。
・プールのような水遊び場を楽しむ。
・郷土の歴史や工芸体験を楽しむ。
・ダムの壮大さと発電や水の供給について学習を楽しむ。

こんな感じ。
全部こなそうとするならば、一日がかりであることを覚悟すべきだ(笑)

公園傍の宮ヶ瀬ダムは、遊覧船や湖周辺の行楽スポットも別途存在するよようだ。
これらは未経験なので、いつかチャレンジしたい。











夏休み最後の土日。
もちろん、宿題の仕上げはクライマックス。

自由課題をどうするか?

僕には奥の手があった。
むしろ、最初からどうするかを決めていた。
「愛川公園の工芸工房で自作の何かを作らせてもらえば良い」
そう考えていた。

なので、夏休み最後の休日。
僕らは神奈川県にある愛川公園に背水の陣の心持ちで向かった。




僕らはお昼ご飯もそこそこに自由課題をこなす。
この話題はまた後日。




無事に自由課題をこなした兄弟。

早く帰ってゲームがしたい長男。
折角来た公園だから遊びたい次男。
まあ、少しのんびりしようよと僕。

僕らは真ん中をとって、アスレチックには行かずパークトレインに乗ってのんびりとダムに向かう。

愛川公園_201708⑪


普段この手の類には乗らないので、長男もなんとなく賛同。
何度か歩いた事のある道をパークトレインの中から眺めながら、あ、あそこは見たことあるよとか、あんなところに滝があったけ?とか、違った視点で公園を楽しむ。

そしてほどなく到着した宮ヶ瀬ダム。

愛川公園_201708⑫

前回は歩いてダムの上を目指したが、実はエレベータがあることを知り、今回の登りはそれを利用。

僕らはダムの裾野の中を行く。
驚くほど涼しい。

愛川公園_201708⑬

ほどなくエレベータに到着。
これで、ダムの上に登る。

愛川公園_201708⑭

要塞の奥底で閉鎖された個室のようでちょっと(個人的に)怖い・・・(笑)

とはいえ、あっけなくダムの上に到着。
景色が良い。

愛川公園_201708⑮

そして、真っ直ぐな直線を見ると走りたくなる兄弟。
突然、ダムの上で競争を始める。

愛川公園_201708⑯

ダム脇には「水とエネルギー館」という施設がある。
地元では有名な「ダムカレー」をふるまうレストランも併設。

僕らは涼みがてら「水とエネルギー館」に。

愛川公園_201708⑳

こじんまりとしているが、ほどほど楽しめる。

これ、おそらくは電気の流れをイメージしたゲーム。

愛川公園_201708⑱


子供たち、楽しいようで何度も挑戦。
ちなみに、3人同時プレイが可能なので、子供たちと僕とで争った。

愛川公園_201708⑲

発電の仕組みを知る装置が色々あって、大概が体験式。
次男、体を張って挑戦中

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ちょっと涼みに立ち寄ったが汗びっしょり(笑)
愛川公園_201708_21


いや、もう、これじゃあ水浴びでもするしかないなと、僕らは公園に戻る。
ダムの帰りはこれ。
愛川公園201605-⑮

ダム建設の際、資材運搬等に使われたもので、今は一般搭乗が可能。

さらば、宮ヶ瀬ダム。
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公園に戻った子供たちは、水着に着替えて水浴び開始。

愛川公園_201708_25

けっこう長々と水と戯れていた。

先に水を上がったのは長男。
ふわふわドームでピョンピョンしたいと、一人着替えては隣にあるフワフワドームに向かって行った。

愛川公園_201708_26

残った次男はひたすら水遊びを楽しむ。
長男は一人でも大丈夫だろうと、僕は次男の水遊びにつきあう。

きがつくと夕方。
早く帰ってゲームがしたいと言っていた長男は、結局公園を満喫していた。

「やっぱり楽しいなぁ」

なんて言っていた。

そうでしょ?
だから、これからもたまには一緒に行こうな。

愛川公園_201708_27

中華屋さんにて







「食べたいアイスはあるかい?おじさんが御馳走するよ」


近所の中華屋さんで、食事が運ばれてくるのを待っていた時だ。
見知らぬお客さんが、子供たちに話しかけた。

子供たちはびっくりして、僕と奥さんの顔を交互に眺める。

「俺は子供が大好きなんだ。御馳走してやるぜ」

僕も奥さんもきょとんとした。
ガテン系の威勢のいい感じの人で、少々酔っぱらっているようでもあった。

「ありがとうございます。けれど結構です」

僕はそう言ったが、その男性は気を悪くすることもなく、「かまわないよ」と言って、子供たちに好きなアイスを選ばせた。

悪い感じの人ではないという雰囲気をまとっていたので、僕と奥さんはお礼を言い、御馳走になることにした。

「子供は可愛いよなぁ。お父さんとお母さんの言う事ちゃんと聞くんだぞ」

そう言って自分の席に戻って行った。
その男性は、同僚の、恐らくは後輩か部下の男性を連れていて、席に戻ると少々の説教を相手の男性に向けて語りはじめた。

「俺たちは仲間だろ。ちゃんと言うんだよ。心配するんだから」

そんな感じの愛情のある説教を続けていた。



この日、子供たちはラーメン&チャーハンセットを頼んだ。
量が多いので、チャーハンは長男が、ラーメンは次男が、という具合に一人前を二人で分けて食べた。

奥さんは刀削麺と牛肉の何だかのセットとビールを頼み、僕はビールとつまみを二品頼んで晩御飯とした。

中華屋さん_②


「餃子は美味しくないよ」

そう奥さんから教えられて頼むをやめたが、この日頼んだ油淋鶏はとても美味しかった。




アイスを御馳走してくれた男性は、帰りしな、お店の人に頼んだタクシーが来るまで、僕らの席に来てしばらく子供たちと話をして過ごした。

長男に、
「最初、女の子かと思ったよ。男の子だったんだな」
そう言って笑った。

タクシーが来ると、
「ほれ、小遣いだ」
と言って、手持ちの小銭をありったけテーブルに置いて立ち去った。

さすがにこれは無いなと思い、返却を試みたが、男性は笑いながら去っていった。



「コンビニ行こう」

奥さんが言う。

「コンビニに行くと、おやつを買ってもらえるって聞いたけど」

奥さんは子供たちの顔を覗き込む。

「父ちゃんも行こうかな」

「駄目だよ。僕らが貰ったお小遣いなんだから」

長男はせっかく手にした小銭が狙われていると警戒する。

「アイス買おう!アイス」

次男はなんだか良くわからないけれど、好きなおやつが買ってもらえるんだとご機嫌だ。
ついさっき、アイスを食べたばかりなのはもう忘れてしまったようだ。


「あはは」と奥さんは笑って、そして皆で夜の道をコンビニ目指して散歩した。

夜風は秋のそれ。

優しく、穏やかで、心地良かった。

中華屋さん_①


半分の魂











君が北を向いたなら、私は南を眺めよう
微かに震える君の、吐息が届く位置に

君が顔を伏せるなら、私は流星を探そう
曇った瞳の奥を、彩る花火になろう

- 天野月子 ・ 1/2(a half)より

天月















古いものを見つけた時、少なからず物思いにふけるのは歳をとった証拠かもしれない。

古いフロッピーディスク。

若いころに就いていた仕事用のものだ。
当時、税務申告関連のシステム開発を行っていて、恐らくはそのデバッグデータか何かが入っている。

おりしも世の中では湾岸戦争があり、けれど日本はその戦争に同盟国として参加するかどうかで揺れ、結果金銭で折り合いを付けるに至った時のものだろうと思う。
とはいえ、国家予算から資金を直接的に捻出することはできず、臨時の特別税を徴収することで連合軍への献上金を工面した。

もちろん、その資金を国民から直接取り立てる事は避け、様々な議論は飛び交ったが、法的人である企業からの徴収でうやむやとした。
この「法人臨時特別税」という取ってつけたような時限的課税は、確か法人別表の適当な空欄を利用してその税額を記載したような記憶がある。
その税率は基本法人税額から300万を控除し、その残額に2.5%を乗じたものだったような、違ったような、、、どうだったろう?
記憶は曖昧だ。

少なくとも源泉徴収票の摘要欄や青なり白なりの申告書の適当な欄に、特別税が設けられる事は避けられた。
つまりは、個人からの直接徴収を避け、国民の当事者感を避けることには成功していた。

印象にあるのは、法人税の申告箇所に戦争支援金の徴収箇所があることに違和感を覚えた事。
平和主義を唱えつつ、知らない場所と気付かれない方法で戦争に参加していた事を意味する。

けれど、世界的視点からみると「金しか出さない」と評され、戦争を正義とした価値観から孤立を招く結果となった。

これがトリガーの一つとなって国連平和維持活動、所謂「PKO」に参加を可能とする法案(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法)の可決を生んだ。

正解はどこにあるのだろう?

神話の世界も戦争だらけだ。
少なくとも、神の国にも平和はない。





そんな呪われたフロッピーとは別に、個人的に保管してあるフロッピーも見つけた。

無数の物語が入っているパンドラの箱。
幸いなのは、このパンドラは誤って開かれる事は無い。

再生用のハードもソフトも手元には無いからだ。

けれど、破棄することもできないでいる。
ささやかだが、僕の、ある時期を生きたあかしとして保管してある。





湾岸戦争で、多国籍軍が空爆を開始するかしないか、もしくはクエートを制圧したかしないか、時期は曖昧だが、そんな時代背景の頃の事。
僕は一人の女性と友人になった。
部門は違ったが、同じ職場で働いていた。

その女性は聡明で気さくで美しかった。
それなりに目を引くタイプに思えたが、どういうわけかとても嫌われていた。

物事に疎い僕は、なぜ嫌われているのかが良く解らないでいた。
そして良く解らない事が興味を引く動機となった。
なので、僕から声をかけた。

「やあ、今日はいい天気だね」
そんな感じで。

「そうね、でも、洗濯ものを干すには向かないかな。なにしろ、結構な雨だし」

僕の捻くれたなげかけにも瞬時に答えた。
そして、それ以上の会話が必要なのかそうでないのかも、状況に応じて判断できる頭の良さを備えていた。
所謂「空気が読めない」というタイプではない事がすぐに解ったし、僕にしたら謎が深まるばかりだった。


これに関して、同じ職場で働いていた「彼女」からはいくつかの忠告を受けた。
できれば、あまり付き合わないように、と。

それは焼きもちとか、そういった類ではなく、言葉を濁した忠告で切れ味が悪かった。
そんなだったので、彼女の言葉はかえって僕の好奇心を助長した。

それ以来、僕らは良く会話をするようになった。
大した話ではない。
取りとめのない話で時間を潰す。
ただそれだけだった。





その新しい友人が、周りから嫌われている理由がぼんやりと理解できるようになったのは、だいぶたってからの事だった。
そして、それが、果たして理由になるのか?の疑問も生まれた。

遠巻きに解ってきたこととして、友人は、いささかやっかいな犯罪に巻き込まれていた過去があった。
過去と言っても、遠い昔話ではなく、一年前か、それぐらいの頃合いのようだった。

それは耳を覆いたくなる内容ではあったが、現実として、世間的にはそれほど珍しい事件でもなかった。
しかも、その友人は加害者ではなく被害者であり、むしろ擁護されるべき立ち位置ではないのかとも思った。

周りの反応は、「聞いたことはあるが、身近に起こるには禍々しい事件を、当事者に直接結び付けて煙たがっている」ように思えた。
感染しない病気を患う人を、なんとなく寄せ付けたくないという扱いに似ている。

僕が間違っているのかもしれない。
何か見落としてる事があるのかも。

そんな風に考える事もあったが、自分の間違いを正すきっかけは微塵も見当たらなかった。


仲良くになった僕らは、時間が許せば、いつまでも話をして過ごした。

「休みの日は何してるの?」
僕が尋ねると
「何もしてない。掃除と洗濯と散歩とテレビと料理」
そう言って笑った。

「こんど、遊びにおいでよ」
友人が言った。
僕はちょっとためらった。
僕の苦手な領域に招待されている感じがしたからだ。
僕もそれほど人づきあいが得意なわけではない。
まして、そういう間柄を望んでいる訳でもなかったし、ややこしい事になるのはごめんだった。


「大丈夫、とって食べたりしないから。日ごろのお礼をしたいんだ。実は料理、得意なんだけど」

わかったと僕は言い、その週末に友人のアパートを尋ねる事になった。
免罪符として、事前に彼女には事の流れを伝えておいた。
「とって食べたりしないって言ってた」
まるで子供のように言われた事を疑問もなくそのまま伝えた。
「そう」
彼女はそれだけを言って、ため息をついた。




「何か飲む?」

友人はそう言いながらビールを差し出す。
「コーヒーを」
僕はビールを受け取らずにそう答えた。

「コーヒーかぁ、、、いつも飲んでるもんね」

ちょっと残念そうに友人は答えて、けれど真新しいインスタントコーヒーの封を開けてくれた。

僕はこの時入れてもらったコーヒーを生涯忘れることは無い。
どうやったらこんな味が出せるのか?というほどマズかったからだ。

「生まれて初めてコーヒー入れた。飲んだことないし、、、」

友人は少し怒ったような顔でそう言った。
そんなものを飲む方が悪いといった感じだった。
僕にはそれが子供じみて見えて、ついつい笑ってしまった。
聡明で控えめな友人にしては、素直で人間臭い反応だった。

何より、飲んだことも無いコーヒーをもしかしたらと買っておいたのは、あきらかに僕の為だろうし、見よう見まねで入れてはくれたが、てんで駄目な顛末に僕は満足だった。
親近感が湧くというのは、こういう切っ掛けを言うのかもしれない。

それから僕らは夕方まで、本の話やテレビの話題や音楽の事などで時間を過ごした。
せっかちでは無い時間の流れ方は耽美で心地よかった。

夕ご飯は得意と言うだけあって、なかなか美味しい手作りハンバーグを御馳走してくれた。
「美味しいね」
僕は素直に言う。
「また、食べにおいでよ」
「うん。またね」
僕は曖昧な返事をした。

食事の後も、少しのんびりとさせてもらい、とは言え、ほどほどの時間で切り上げた。

「ありがとう、美味しかったし楽しかった。またくるかも」
「思わせぶりだね。期待してしまうよ」
友人は言い、僕は笑ってさよならをした。





その日からか、その友人は僕が話しかけない限りは、誰かと話しをする姿を見かけなくなった。
黙々と仕事をこなし、なるべく目立たないように過ごしているように思えた。

時々視線を感じるのは、決まって僕が彼女と会話をしている時だった。
ちょっと気にはなったが、思い返せば以前からこうだったような気もした。

たぶん、気を使っているのだなと、僕はそう理解した。
周りの評価など僕は気にしないので、あけすけに接してもらっても構わないのだが、本人のルールかもしれないので、何も言わなかった。

しばらく会話の無い日々が続き、少し気にはなっていたので、夜、電話をかけてみた。

「どうしたの?」
寝むそうな声で友人は電話に出た。
「元気かな?と思ってさ」
僕はほかに理由がなかったので、そう尋ねてみた。
「元気だよ。それ以外に取り柄がないし」
「いや、ほかにもあるな。コーヒーの入れ方は日本一だよ。僕が証明する」
「はは、嫌味だね、、また遊びに来てよ。そういう約束をしたような気がするし」

僕は黙る。
足元を見つめる。
そこには、つま先で引いた覚束ない線があるような気がした。
飛び越えるのは簡単だ。
けれど、魔法陣のように、飛び越えると戻れないような気もした。

「最近は何してたの?」
僕は話題を変える。
「毎日、日記を書いてる。内容は教えてあげない」

「そうか、それはいい。気がまぎれるし、文才が身に付く。将来作家になれるかもね」
「そんな事の為に書いてるわけじゃないんだけど、、、。しかも気分はまったくもってまぎれない。不満が募るだけ」
「そうか、でも元気そうでなによりだ。よかったら明日からは気軽に話しかけてよ。周りが驚くかな?。そうしたら言ってあげようよ。二人で漫才師になるんだって。全国狙ってるって」
友人は電話口で笑った。
「全国かぁ、、、。突っ込みはどっちかな?二人とも向いてない」

「それじゃあ、また、、」
僕は変な間ができないうちに「お休み」を言った。

「約束、いつか果たしてね」
友人はそう言い電話を切った。

約束。
二人で漫才師になって全国区に進出することか?

そうではない事は馬鹿な僕でも気が付いていた。





それから、僕はあからさまにその友人に話しかけるようにした。
僕にできることは限られている。
彼女の手前、それがあまり良いことではないのは気付いていたけれど、彼女と友人と三人で話をしたりとか、ぎくしゃくした雰囲気だったりもしたけれど、すくなくとも友人が寂しい思いをしないで済む事は感じ取れたからだ。

ただ、それもあまり長くは続かなかった。
程無く彼女はヘソを曲げてしまったし、あけすけに不満を言いだした彼女に対し、今度は周りが不満を言いだしたからだ。

「仕事に支障が出てるんだけど、、、責任もってなんとかして」

同期の一人が代表として僕に忠告をした。
たぶん僕は、みんなに聞こえるようなサイズのため息をもらしたに違いなかった。




僕は彼女を事務所の屋上に呼び出した。
まるで、テレビで見たようなシーンだ。

「言いたいことがあるならはっきりいいなよ」
少々けんか腰で切り出す。
これもまたテレビで見た事あるようなシーン。


「べつに」
明らかにもの言いたげな顔で彼女が言う。
僕は彼女を代弁して、僕に対する不満を僕自身で言った。

「その通りです」
彼女は怒った顔で返事をした。

つまりは、忌み嫌う友人と僕が親しく接すること、さらにはその役割の一片を担わされている自分の立ち位置に不満があったのだ。
子供じゃないんだから、とは口が裂けても言えないし、最大限の妥協として、もう巻き込んだりしないし、必要以上に友人と接する事もしないよと伝えた。
けれど、時々はいいでしょ、とだけ念押しすることも忘れなかった。





彼女とのやりとりを、その夜友人に電話で伝えた。
急に態度を変えるのもおかしな話だし、事情を説明しておいた方が誤解がないと考えたからだ。

「焼きもち焼かせちゃったね」
友人が笑った。
「おかしな話だよ」
僕が言う。
冷静に考えればおかしな話ではない。けれど、こそこそとしている方がいらぬトラブルを発生させる。
なので、あけっぴろげの方が良いと考えていた。

「また一人になっちゃうな、、、、なんて言ったりしないから大丈夫だよ」
電話口で友人が笑う。
「役割上、みんなのものなんだよ。独り占めはできないって知ってる。ひとりじめできるのは彼女だけだしね」
「そんなに御利益もなければ、人徳もないよ。たぶん、色々な事にとって便利な人間なだけさ」
言葉通りで、卑下た表現でも何でもなかった。
当時の職場で、いくつかの部署を束ねる役割を担っている都合上、色々な人に関わらざるを得ない。
ただそれだけの役割でしかなかった。

「でも、時々順番がまわってくるんでしょ?それなら、それでいいよ」
「まるで、人気のホストみたいだ」
「あはは。前に職場のイベントで歌舞伎町に行った時、似合ってたよ」
「あんな服装のホストはいないよ。私服とは言え発掘作業用のベスト着てたんだよ」
僕は笑う。
着るものには無頓着で、あの時なんであんな格好していたんだろうと思いだした。

「順番が来たら、また声をかけてよ。きっと喜ぶから」
じゃあ、おやすみと友人は付けたして電話を切った。
それは、僕からだと電話が切りづらいだろうと気遣った感じに思えた。





友人が巻き込まれた事件。
その当時、勤務地の違いで僕は事件があった事すら知らないでいた。

忌まわしいもので、あまり具体的には語れない。

友人は一人暮らし。
その日の仕事を終え、アパートに戻った時だった。

鍵をかけるより先に、見知らぬ男が刃物を手にして侵入してきた。
そしてそれから、友人は数日出勤することは無かった。

その時何が起こったかはここでは語れない。
そんな資格は僕には無い。

いつだかの、どこかの新聞でもひっくり返せば詳細が出てくるかもしれない。

僕は直接本人から説明を受けた。

「それでも優しく接してくれるのかな?」
話終えると、友人は驚くほど悪戯っぽい表情で僕の顔を覗き込んだ。

「興味は無いよ、そんな話。話してくれと頼んだ覚えもない」

僕はそう答えたけれど、たぶん動揺していたと思う。
聞きたく無い話だし、知りたくない話だった。

一つ解った事。
彼女は嫌っていたわけではなく、たぶん怖がっていたのだと思う。
それは、本能に近い感覚なのかもしれない。

けれど僕は、いきがかり上後戻りをする事など考えなかった。
つまるところ、僕には役割があるのだろうと感じていたからだった。





友人とあまり人前で親しくすることが無くなっていった。
なるべく彼女と過ごす時間を大事した。

彼女の安定した感じを汲み取ると僕も安らかだったし嬉しくもあった。

その分、友人とは二人だけで過ごす時間をつくるように心掛けた。
わずかな時間でも、電話だけだったとしても、少しでも役に立てたらよいなと思っていた。

けれどそれは、かえって寂しい思いをさせてるのかもしれないという罪悪感も生んだ。
僕の方が少々気が病んでいたのかもしれない。
そんな自惚れが、罪の意識として育っていった。

「何かもっと、してあげられる事はないだろうか?」

そんな事は望まれていないかもしれないのに、僕は勝手にそう思い込みはじめていた。

「心が緩むよ。顔をみるとね」

そんな事を言われると、罪悪感が募った。
何かをしてあげたい。できれば、僕にしかできない何かを。
けれどそんな都合のよい魔法はなかなか思いつかなかった。





ある日の事だ。
ひらめきというのは突然で、望んでも授かる事の無い御託宣のようなものかもしれない。

そのひらめきはあまりにも下らない事で、けれど、その下らなさがちょっとした宝物になるような気がした。

物語を書こう。

脈絡の無い閃きだった。
けれど、たぶんそれが僕にできる唯一の事のように思えた。
物語を書いて、友人にプレゼントしよう。
僕などが一緒に居なくとも、むしろ気晴らしくらいにはなるかもしれない。
笑われたら笑われたで、役割は果たせるような気がした。

もちろん、そんな真似事すら経験がなかった。
ぽんと手を叩くと「話」が湧いて出るものでもない。

そんな事は解っていたが、この奇想天外なアイディアに喜んでもらえるような気がしたし、不思議となんとかなるような気がした。
そして、案外なんとかなった。

初めての作品は、一週間ほどで書き終えた。
数十枚の短編。
それから一週間ほど推敲を重ねて、自前のプリンタで印刷を行い、パンチで穴をあけて二穴のリングファイルに収めた。

そして直ぐに友人に電話をした。

「プレゼントがあるんだ。今から届けに行ってもいいかな?」

僕はたぶん得意げだったと思う。





「いいかい、先に言っておくと、これは僕がいないときに読んでくれ。それと感想は受け付けない。そういうサービスはしていないんだ」
僕は念を押して友人に作品をプレゼントした。

「すごいね。ありがとう。予想もしない展開だ」
友人は素直に喜んでくれた。
たぶん、僕も生涯において物語をプレゼントされる事はないだろう。
子供じみていることは解っていたけれど、卑下して言えばこんな事ぐらいしか僕にはできなかったし、精一杯頑張っての事だった。

「楽しみだな。ええっと、悪いけど、もう帰ってくれる?早く読みたいんだ」
友人はそう言って玄関のドアを閉めようとした。

「いや、ちょっと、飲み物くらい出てきてもいいんじゃないかな?」
「ああ、そっか。じゃあ、コーヒーを入れるよ。どういうわけか、全然減らないし。でも、急いで飲んでね」
「え?、、やっぱりパスするよ。今日は帰る」
「嘘だよ、そんなに嫌がらなくていいと思うけど。コーラがあるから、よかったらそれでも飲んでよ」

そう言われたけれど、僕はその場を退散することにした。
「気分を害したわけじゃないんだ。早く読んでもらいたいし」
それは素直な気持ちだったし、けれど目の前で読まれても自分が居た堪れないような気がしたしで、その日はそのまま自宅へと戻った。
正直、感想は気になったけれど、恥ずかしさもあって、しばらくは友人と接することを避けてしまった。




「感想は、どう?」

我慢ができず、僕の方が尋ねてしまった。

「そういうサービス、してないって聞いたけど。それとも別料金?」
友人は笑いながら答えた。

「今なら特別期間で、無料なんだ。是非聞きたい」

立場が悪いぞとおもいながら僕は尋ねた。
客観的な意見は大事だ。
それに、これからのモチベーションにも関わる。

「なんていうか、こう、青って感じ」
「え?」
「初めて読んだ時、頭の中に青色が浮かんだ。あ、青だって。素敵だと思った。解りやすく言うと、優しい感じ」
「いやむしろ、全然解らない、、、」
「いいんだ。解らなくても。これ、くれるんでしょ?大事にするね。」

友人の言っていることは良く解らなかったけれど、少なくとも喜んでくれている姿には偽りはなさそうだし、僕はそれを満足とすることにした。

「また、持ってくるよ」
「え?まだあるの?」
「いや、これから書くよ」
「なんかすごいね。こんな楽しみ経験が無い」

友人の喜ぶ顔は心地よかったし、勇気にもなった。
馬鹿みたいな事なのは解っていたけれど、それでも僕なりの役割を果たせそうな気がした。
それから、僕は沢山の物語を書くことになった。






まあ、たぶんそうなるだろうと、心の奥の方で感じ取っていたし、けれど案外突然で少々戸惑った。

「もう、会わない方がいいと思うよ」

友人はそう切り出した。

「引っ越しするんだ」

そう言葉を続けた。

その時は既に職場を退職していたし、別々の生活圏で日々を過ごしていた。
僕はと言えば、前にもまして一緒にいる時間が減っていたし、とはいえその分届ける「物語」は増えていて、かれこれ二十本くらいは書き上げて、綴じていたファイルもだいぶ厚くなった頃合いだった。

「これ、大事にするね」

友人は物語の閉じられたファイルを手にそう言った。
そうしてもらえれば嬉しいし、でもそうしなくても別に構わないと僕は言った。
僕にとっては、書き上げた物語などどうでもよくて、一緒に過ごした時間だけで十分だったし、その副産物がいくつかの思いもしない物語だっただけだ。

「ねえ、これ、貰ってくれるかな?」

友人は、僕に三冊のファイルを手渡した。
それは、三冊を重ねると電話帳より厚く、僕の書き上げた物語のファイルの厚みを優に超えていた。

「日記だよ。親しくなってから今日までの。でも、ここでは読まないで。あ、あと、感想は受け付けないよ。そういうサービスはしていないんだ」

そう言って友人は笑った。

最後の挨拶がどんなだったか、今では覚えていない。
たぶん「じゃあね」とか、そういったありきたりな挨拶で終わったと思う。

貰った日記はしばらく読まずにしまっておいた。
少し時がったって、友人との連絡を取らない事が日常となったころにようやく読む事の決心がついた。

それは、全てのページに僕の事が書かれていた。
それは何気ないしぐさとか、こんな感じだったとか、とりとめもない事を拾い出しては、割と愉快に、そして優しい言葉で、ところどころにイラストを添えて綴られていた。

「毎日、日記を書いてる。内容は教えてあげない」

いつだったか、そう言っていたことを思い出す。
本当に、毎日書いていた。

僕は本当に求められていた事に対して、きちんと答えていない事が理解できた。
それは確信犯だったのだけれど、そこには責める言葉は書かれていないなかった。

「嬉しいな」

そんな言葉で日記は埋まっていた。






「名前はなんて言うの?」

「ミムラ姉さんでいいよ」

彼女はそう言って、笑った。
乱暴に言ってしまえば、行きずりの人で、名前も知らないままだった。

「姉さんって、僕の方が年上だけど」

「ムーミンて知ってる?ミーのお姉さんの事よ。似てるって言われるの」

ああ、と思った。
似ていると言えば似ている。
まあ、名前など僕らの関係にはあまり意味を持たない。
そして、どうしてそうなったかは思い出せないが、最近引っ越しをしたのはよかったが、出張が多くて何一つ片付かない部屋を一緒に整えてくれると言い、僕の引っ越し作業を手伝う事になった。



新しいマンションには、29インチのテレビが床に転がっているだけで、それ以外の家具の類は無く、床はむき出しで窓にはカーテンさえ無い状態だった。
要は一から出直すイメージで、今までの手持ちの物たちは布団以外のほとんどを処分してしまっていた。
そこまでは良かったが、それからは何一つ整えられないまま、日々に忙殺されていた。

「掃除しようか」

ミムラ姉さんは少々あきれ顔でそう言った。
別にちらかっている訳では無かった。
人が住む環境があまりにも整っていない事に驚いたようだった。
つまりは、まさにいまから引っ越しで、まず手始めに雑巾がけからしないといけないとげんなりした感じだった。

とはいえ、ミムラ姉さんはせっせとむき出しの床を雑巾がけし、僕はと言えば、急ぎ必要なものを買い出しに出かけた。


そんな感じで、初日はあっという間に終わってしまった。





「カーテン買いにいきたいんだ。一緒に行って選んでよ」

翌週の休日、僕は訪れたミムラ姉さんに提案をして、そして外に出ようとした。

「ちょっとまって」

ミムラ姉さんは呆れたようにそう言った。
なんだかいつも呆れられている。

「サイズ測った?」
「え?サイズ?」
「窓の大きさには色々あるから、ちゃんとサイズを測って買わないと寸足らずになったりするんだよ」

ああ、そうかと僕は小道具のしまってある段ボールをごそごそして、メジャーを探し出す。
発掘調査員をやっていたころの巻き取りメジャーをなんとか見つけ出して、窓のサイズを測った。

そんな感じで、人が住むのに足りないものを色々工面することを二人で行った。

「なんか、新婚みたいで楽しいよ」

ミムラ姉さんはそう言って笑った。
確かに楽しかったし、素っ気ない日々にあってちょっとした喜びも感じていた。

そうした時間を過ごす中で、僕たちには、幾つかの選択肢が与えられていた。
親しい友人である事も、仲の良い恋人同士であることも、なんなら兄妹のように過ごすことも選ぶことができたに違いない。

けれど、僕らはどれも選ばなかった。





「おかげで人が住める場所になったよ」
「よかったね。なんか男の人の部屋って感じになった」
最終的には大型のテレビラックもセットして、たぶん威力を発揮することもないオーディオも組み上げ、それっぽい部屋ができあたった。

「お礼がしたいんだけど、これ受け取ってもらえるかな?」

僕はかねてより買ってあった腕時計をプレゼントした。
スウォッチの、当時としては珍しいメタルフレーム採用のクロノグラフ。ベルトは黄色の革製を選んだ。

「イメージとまったく合わない方が面白いと思ってさ」

その時計を選んだ理由を伝えた。

部屋の中で寛ぎながら、ミムラ姉さんは渡された時計を不思議そうに眺めた。

「らしいね」

そう言って笑った。

「らしいね」の意味は解らなかったけれど、よろこんでもらえたようで嬉しかった。

それから少しの時間を一緒に過ごし、「もう帰るね」とミムラ姉さんは立ちあがった。

「これ、持って行っていい?」

ミムラ姉さんは、玄関口に向かう廊下に設置した棚のファイルを手に取り尋ねた。
それは、かつての友人の為に書きためた物語で、自分用にファイルしてあったものだった。
持ち物を整理しているときに、物語の真似事を綴ったファイルなんだと伝えてあった。
謂われについては語らなかったし、興味を持つとも思っていなかった。

「別にいいよ。口に合うかは保証できないけど」
「ありがとう」
「じゃあ、またね」
「うん」

そう言いながらミムラ姉さんは手を振り帰っていった。



新しく整った部屋は居心地が良く、ミムラ姉さんが帰ったあとはビールを飲みながら映画を見て過ごした。

そんな中、なんとなく違和感があって、壁に目を向ける。
吊るしてあったジャケットが右側にいびつな感じで傾いていた。
気になったので、映画を止めて壁にかかっていたジャケットを整えに立ち上がった。
そこまで神経質だったかな?と自分に問いかけながらジャケットを取り上げる。
その時、ジャケットに変な重みを感じた。ポケットに何か入っている。
手を入れると、ミムラ姉さんにプレゼントした腕時計が出てきた。

事の意味を直ぐには理解できなかった。
忘れたのかな、と思ったりもしたけれど、僕のジャケットから出てくるのはおかしな話だった。
電話をして聞いてみようと思った。
その時、点けっぱなしにしてあったパソコンにメールが届いていることに気が付いた。
メールはミムラ姉さんからで、そのメールを読んで事の事情を理解した。

そして、僕は電話をするのをやめて、映画の続きを見ることにした。

映画では、殺し屋役のジョントラボルタが、取り戻したアタッシュケースを開けるところだった。
暗証番号は「666」で、ゾロ目の番号なんて駄目だよと、一人突っ込みを入れたりした。





メールに書かれていた事。


「物語のファイルありがとう。
これ、色々手伝ったお礼として貰っておきます(笑)

そのかわり、時計はいりません。
あなたが身にした方が似合うと思います。

寂しい二人が一緒にいても、寂しさを紛らわすだけです。
けれど、楽しかったです。」








「最近、子供たちの具合はどう?」

久しぶりに会った彼女は、ニコニコしながら日本酒を舐めている。
月日は流れても、彼女の整った顔立ちは変らない。
なんだか不公平だなと思った。
僕は老いていくばかりだ。

「元気だよ。何より可愛らしくてたまらない。面白いし。奥さんは色々大変みたいで、いつもぐったりしてるけど」

僕はビールを飲みながら、つまみが早く来ないかなと店の奥を覗きながら答えた。

とりとめの無い会話だけれど、彼女といる時の空気感は、胎内をたゆたうような居心地の良さを感じる。
いつだってそうだった。
けれど、それは、選ばれなかった安息で、二人が共通して必要としたものではなかった。


「私も、子供欲しかったな」

彼女がしんみりと言う。

「まだ間に合う。たぶん。ちなみに僕は手伝えない」

僕は無責任に答えた。
彼女は派手に笑いながら「頼んでない」と言い、僕の肩を叩いた。

彼女の恋人は数年前に亡くなっていた。
自ら命を絶った。
泣きながら携帯に連絡してきたときに、僕は何もできなかった事を思い出す。
今思えば、僕は彼女の為に何かをしてあげた事はないのかもしれない。

その後の色恋沙汰はあまりよく解らない。

「最近、料理に夢中で」

意外でしょ?といった感じで彼女は悪戯に笑う。

「それはまた、乙女な」

僕も笑う。

「教室にも通っていて、すごく上手になった」

本当に楽しいようで、色々と料理の話を聞かせてくれた。
僕も子供たちのお弁当作りや、奥さんが不在の時に支度する晩御飯作りなどのおかげで、多少なりとも話相手が務まった。

けれど会話の行く末は、「こんど御馳走するね」にはならない。
そういう関係は遥か昔に結論ついていた。

僕は唐突に切り出す。

「ねえ、魂の方割れってしってる?」
「何それ?知らない」
「一つの魂は、生まれるときに二つの生命に分かれて生まれてくるんだってさ。それで、再び巡り合った時には、漫画の効果音並みにビビッとくるみたいだよ。気が付かなかった?」

彼女はきょとんとした顔をした。
そして少し考えて、お酒をひと呑みする。
そしてにこっと笑った。

「生まれ変わる時の為に、覚えておくわ」

そう言ってから、日本酒のおかわりをオーダーした。





いらっしゃいませ
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kakeru666

Author:kakeru666
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子どもたちとのお出かけ記録。

これからの方々の参考になれば幸いです。

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