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必要な勇気を探しに











休日。

奥さんはパートで、僕は自宅にこもり、掃除やら洗濯やら何やらの家事をこなしていた。

いつもそうなのだが、やり始めると終わりの無い家事はなかなか手ごわく、けれど、案外嫌いではないので、日がな一日勤しんで過ごす。


「迎えにきてくれる?」

夕方、奥さんから連絡が入った。

「行きたいところがあるんだ」

そう言っていた。

「OK、仕事、終わりそうになったら連絡して」

僕はそう言って身支度を始めた。




「お待たせ」

待ち合わせの場所に停めておいた車の窓を開けると、奥さんはそう言い、そして「はー、疲れた」と笑いながら助手席に座った。

「どこに行きたいの?」

僕は尋ねる。

「う~ん、よく解らないんだけど、だいたいなら解るかな。とりあえず北に向かって走ってよ」

てっきり、夕飯の食糧買い出しに行くものと思っていたが、どうやらそうではなさそうだった。
解せないまま、僕は車を走らせた。
行き先はどうでもよかったし、久しぶりに奥さんとのドライブを楽しむ事にした。





「ああ、ここみたい」

奥さんはそう言って車を降りた。
街道から山中に続く脇道に入ると、道は驚くほど狭くなった。
所々でキャーとか言いながら、奥さんは車の中で身を縮める仕草をした。

「なんだか、不思議なところだね」

僕が言う。
それは景観というより、漂う雰囲気からの感想だった。
夏の暑さはそのままだったが、その暑さを感じさせない不思議な空間になっていた。

「・・・不動尊て書いてある」

「そうみたい」

奥さんは何かで聞いたか、見たかで、つまりはご利益がありそうだと興味を持ち、ちょっと行ってみたいなという好奇心から僕を誘ったようだった。

停めた車から少し歩くと、程無く目的の場所にたどり着いた。

そして雰囲気の不思議さは、むしろ神秘的なものに変わっていった。
ひぐらしの鳴きごえと、そして人の気配が一切無い事も、感覚を研ぎ澄ます要因のひつになっているのかもしれない。

ぼくは少々たじろく。
雰囲気に押され入口付近で立ち止まっていたが、奥さんは遠慮なく中へと入っていった。

不思議な場所

名前の知らない花々が敷地の中で咲いていた。
それは無造作に散らばりながら咲いていたが、廃墟のような野放し具合ではないことが解った。
敷地はとても綺麗に整備されていて、ゴミも雑草もなかったからだ。

「せっかくだし」

奥さんはそう言いって、御賽銭箱に小銭を入れて鈴を鳴らした。
少し御祈りをして、そして入口付近に立ち止まったままの僕のいる場所に戻ってきた。

「不思議な場所だね」

奥さんが言う。
僕は、不思議というのとちょっと違った印象を持っていた。
けれど適切な表現が思いつかなかったので黙ったまま頷いた。

「なんか、奥に行けるみたい」

細い路地が裏山に続いているのに気が付いた奥さんは、そう言いながら歩きはじめる。
僕はちょっと考えて、けれど奥さんの後を追いかけて裏山に続く道に入った、。





僕は再び立ち止まる。
目の前には想像していない世界が広がっていた。

「なんだか、すごい」

思わず僕はそう言った。
奥さんは、目の前に広がる景色をゆっくり眺めながら、奥へと歩き続ける。
不思議な景観の中を行く奥さんを、僕はしばらく眺めていた。

僕の中に、表現ができない感情があった。
それは、表現する言葉を持たない感情だった。

僕はしばらくその場に立ち止まっていたが、奥さんを見失ってしまいそうになり、あわてて後を追いかけた。

不思議な場所②





さらに奥に進む。
けれど、不思議な世界は終わらない。

それより、何か神聖な空気感が強まっていく。

「これ、飲んでよいのかな?」

奥さんは山の斜面にあった湧水を指差した。

「どうだろう?解らないな、、でも、手を清める事は良いと思うよ」

「じゃあ、そうしよう」

奥さんはそう言って手に水をかけた。
奥さんは一言も感想を言わなかったが、その水は驚くほど冷たかった。

不思議な場所③



僕が手に水をかけて、その水の冷たさに驚いている中、奥さんは山の斜面を登る階段を上がっていった。

不思議な世界の不思議な入口のように感じた。
僕はスマートフォンをポケットにしまう。
ここから先、写真を撮るのは止めた方が良いかなと直感的に感じたからだった。

階段を登った先には幾つかの祠があった。

「ここ写真撮影禁止だって書いてある」

僕は黙って頷く。

奥さんは幾つかの祠をめぐり、急な斜面に点在する石造を眺め、その中にあるいくつかの十字架を不思議だと言いながら、やがて階段を下りていった。

正直に言うと、僕はその先に続く道をさらに奥に進んでみたいと思っていた。
けれど奥さんは「もう、帰ろうか?」と言って、来た道を戻っていった。



「ちょっと、イメージが違うかな」

車に乗り込むと奥さんはそう言った。
どんなイメージがあったのか解らないが、何もイメージを持っていなかった僕はなかなかに衝撃的な場所だった。

「さ、帰ろうか。子供たちお腹すかしてるよ」

奥さんはそう言って、「今晩何にする?」と言いながら、ニコニコしていた。

「作ってくれるんでしょう?」

笑いながら、「帰ろ帰ろ」と言い音楽をかけた。


「僕たちはきっといつか
遠く離れた太陽にすら手が届いて
夜明け前を手に入れて笑おう

そうやって青く燃える色に染まり
おぼろげな街の向こうへ
手をつないで走っていけるはずだ」



最近奥さんお気に入りの米津玄師、次男が好きなヒーローアカデミアの主題歌を聞きながら、僕らは自宅へと向かった。

次男はミライセンシのヒーローになった。
僕と奥さんは夜明け前を手に入れて、手をつないで走っていけるだろうか?

そんな事はお構え無しに、夕日は綺麗で、明日の天気を約束してくれていた。

僕と奥さんはおぼろげな街に向かって、歌いながら帰っていった。




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必要な勇気を探しに

こんにちは~

私の思った感想は その(不動尊の)場所の神秘さと
突然 そこへ行きたいと言いだした奥さんの怖さ。
偶然、見付けた場所なのだと思いますが
なにかの暗示で 呼び寄せられている様な 感じがしました。

(うまく言えませんが・・・)
kakeruパパさんが立ちすくんだのも
なぜこの場所へ来ているのか、
違う世界へ迷いこんだのだろうか、
と思ったのではないでしょうか?

(違う世界へ迷い込んだようで)ちょっと怖いなっと感じました。


>名前の知らない花々が敷地の中で咲いていた。
>それは無造作に散らばりながら咲いていたが、
私も お写真を見た時に すぐに分かり とても違和感を感じました。
お花畑や花壇でもないのに 通路に同じ様な花が咲いている。
それも(通路辺りに)雑草がない。

っという事は、何者かの手が加えられているという事でしょうが
それが 通路に花の種をまくっという行動が
奇抜というか 面白いというか・・
また人の気配がない所が 怖さを増しますね。


今度、その場所へ行ったら 何もないかも・・・ 
な~んてね・・・(^_^;)



Re: 必要な勇気を探しに

tomパパ 様


コメントありがとうございます。

ここは、とても神秘的で不思議なところでした。
最初に感じたのは、入ってはいけない場所かも、と。

整然と混沌とが共存していて、危ういバランスを作り出しているように感じ、異物が交わると形成している世界観が儚く崩れてしまうように思え、なので躊躇した次第です。

本文には書きませんでしたが、奥さんが裏手の山に続く道に向かうのを追いかけた時、どこからか話し声が聞こえ、けれど、何を話しているのかわからず、最後にクスクスと笑っているのを感じました。

それは子供の声色に思えましたが、その時むしろちょっとした不安が取り除かれたような気分になりました。

僕が奥さんの後を追い、建物の裏手にまわったときでした。

再び立ち止まったのは、想像もしていなかった景観が現れたこともあるのですが、それ以上にたくさんある石像の、そのうちの幾つかの足元に、子供用の小さなオモチャが、丁寧に並べられているのに気がついたからでした。

埃をかぶっているでもなく、色あせて朽ちているでもなく、とても綺麗に並べられていました。

誰かが毎日のように手入れをしているのだなと理解すると共に、なんだか優しげですっと緊張が解けていく感じでした。

またこようよ。今度は山の奥までいってみたいな。

帰りがけ、そう言ったのは僕の方でした。

どうやら、呼び寄せられたのは僕の方のようです(笑)
奥さんが、水先案内役を賜ったようで、、。

最初、入り口に立った時には何がおこった?と、混乱もしましたが、今はまた訪問してみたいなと思ってます。

調べたら、湧き水、とても美味しいらしいです。
今度は一口頂いてみますね。

No title

こんにちは~♪

不動明王とか湧き水について調べてから
コメントしようと思って、うっかり時間が
過ぎてしまいましたよ(汗)

湧き水は名水のようですね
次回は水筒持参でどうぞ♪

2枚目の写真で、「異世界」なのが伝わります
現世と、あの世の橋渡し的な場所なのかも?
(※青森県の恐山的な感じ)
浄化作用が高い場所にも思われます

色んな事、いったんクリアにして再出発!
という奥様の意思表示だったのかな

我が家の近くにも不動明王をまつった寺があり
湧き水を求めて人が訪れているようです

クワ子さんが一人で行ったらしく、お供えには
ゆで玉子を使うそうでした
写真は撮れないかも?ですが、近々自分も
行ってみようかな、と思います

百億の昼と千億の夜、萩尾望都のコミックを
入手しまして、ようやく半分読みました
コミックでも難解(笑)

Re: No title

aonekopapa 様

コメントありがとうございます。

この場所は東京と埼玉の境目にあります。
その境目は東西に連なる山で区切られたようなかんじで、山中には割とたくさんの神社仏閣が軒を連ねております。

まるで名だたる霊山のようで、けれどあまり知られていないエリアでもあります。

その中にあって、ご紹介した場所は異色ではないかなと想像してます。

目にした風景のインパクトから、思わずたじろいてしまいましたが、危うくはあるものの、儚い優しさが感じられる場所でもありました。

感じたのは、全ての箇所に安易に近づいてはいけないと言うこと。
つまりは許される箇所と許されない箇所があるように感じました。 
おそらく、それは、人により違う箇所に対してそう感じるのではないかな?とも。

うまく感想がいえないのですが、危うい、儚い、優しい、で形容する何かを汲み取ったのですが、表現するための適切な言葉の持ち合わせがありません。

例えば廃墟があったとして、立ち入ってみると違和感を感じ、よく見ると廃墟でありながら埃一つなく、部屋の至る所に手入れされた食器やら写真立てやらが整然と並べられていて、けれど、それらはしかるべき場所には無く、何故かみな椅子の上に左向きに並んでいて、その意味を考えながら奥に進むとキッチンがあって、流しの蛇口からは不思議なほど冷たい水が流れ続けていて、飲んでも大丈夫なものかどうなのかを思案しつつ、手は洗っても大丈夫だろうと流れる冷水に手をあてた後、さらに奥に続く廊下があることに気がつき、ためらいながら奥に進むと、廊下の壁沿いにたくさんの扉があって、なんとなしに全ての扉を開けてはいけないことを理解し、さて、どうしたものか?と佇んでいると、どこからともなく、クスクスと笑い声が聞こえて、ああ、そういうことなんだと自分なりの解釈をして、選んだ扉に手をかける決心がつく感じ(笑)

何のことかむしろわからないか、、、(笑)


百億の昼と千億の夜

読み始めたのですね。
頑張って下さい。

僕は幾度となく挫折しました(笑)

頑張って下さい!

いらっしゃいませ
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Author:kakeru666
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子どもたちとのお出かけ記録。

これからの方々の参考になれば幸いです。

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